この作品は2015年くらいから色々な用途に合わせて作っていた曲を中心に、アルバム用にエディットを重ね、最終的には完全に個人で制作したものだけに絞った、セルフプロデュースアルバムです。

演奏、プログラム、ミックス、マスタリング、アートワーク、ビデオ、ディストリビューションまで、個人で完結するという試みです。各楽曲の説明をします。


1    Photogram 

スイス人グラフィックデザイナーのMax Huberが1930年代から1960年代にかけて撮影していた写真作品の中で、フォトグラムの技法を使ったごく初期の作品に触発され、当時、最新の技法であったであろう、プリペアドピアノのサンプリング音色で製作したもの。音源はすべてNative Instruments社で、プリペアド・ピアノ、チェロのピッツィカート、ハープ、una corda、FM8のサインウェーブを使用。







2    Setar

NI社のThe Giantという仮想ピアノ音源で、プリペアドピアノ的でありつつ音程はそれよりもキープしている音色を作り、即興的に弾いたものを5/4拍子のグリットの中でループすることで、ドラムとは意図しない場所で頭がずれたり、合ったりするような、ポリリズムなズレを狙ってプログラムしている。タイトルは、曲中に出てくるイランの伝統楽器の名前。




3    KN-17

2017年8月にJ-アラートが鳴り響いたというニュースを聞き、その警報音とナレーションを録音して出来たもの。タイトルはその時に発射された中距離弾道ミサイル火星12のNato コード名。イントロは尺八のサンプルをコード弾きしたもの。




4    Rephase 

remixとか、reissure などでいう再度、もしくは返信の意のReにフェイズを足した造語。イントロのテリー・ライリー的なオルガンの音色から発展していったもの。普段、あまり音楽から映像的なイメージは喚起しないのだが、この曲を制作中に、黒のグラデーションのピクセルがズレていくような映像が頭にあり、シーケンスソフトCubaseの一つのブロックをスクリーンショットで映像化し、ピクセルが出るまで拡大し、重ね合わせずらしたものが、Aの写真なのだが、もう少し有機的な動きが欲しくなり、グラフィックソフトでBを制作し、もっと紙の質感をいれるために、実際に画用紙にパステルで着色したものをスキャンして合成したものを最終的にジャケットに採用した。この後に、もう一度すべてのマスのパーツを作り直し、ヴィデオ用のコマ撮りのパーツとして使用した。














5    Pareidolia

今回、唯一使用したヴィンテージ機材 Roland SH-2000のサンプル アンド ホールドのランダムなフレーズをmidi ノートに書き出し、バスクラリネット音源でユニゾンにしたもの。パレイドリアとは、心理現象の一種。視覚刺激や聴覚刺激を受けとり、普段からよく知ったパターンを本来そこに存在しないにもかかわらず心に思い浮かべる現象を指す。パレイドリア現象、パレイドリア効果ともいう。一般的な例として、雲の形から動物、顔、何らかの物体を思い浮かべたり、月の模様から人やの姿が見えてきたり、録音した音楽を逆再生したり速く/遅く再生して隠されたメッセージが聞こえてきたり、というものがある。意識が明瞭な場合でも体験され、対象が実際は顔でなく雲だという認識は保たれる。パレイドリアは、ランダムデータの中に何らかのパターンを認識するアポフェニアの、視覚的・聴覚的な事例である。(wikipediaより)






6    Hide

フィレンツェ在住の靴職人、深谷秀隆氏が、彼のアトリエ、”il micio”オープン10周年記念にマリノ・マリーニ美術館で行った展覧会でのパフォーマンス用に制作したものを再構築した。彼の工房で作業中の音を録音し構成している。職人の手作業から生まれる規則的なリズムをベースにした。工房では、一切機械を使わず、人力のみで靴作りが行われており、ここで聞かれる音は、産業革命以前の音と言っても過言ではないのではないだろうか?この展覧会では実際には履くことの出来ないデフォルムされた靴の彫刻作品だったため、工房の具体音とは異質なシンセのシーケンスを重ねた。ここで使用したのはNI社reaktor用の”Chroma and Gris-Gris”という予測不能なフレーズが生み出されるグラフィカルなプラグインシンセ。タイトルは、この時の展示が、見つけにくい所に作品が置かれていたことと、アトリエは公開されていないこと、そしてもちろん、彼の名前にかけたもの。











7    S.o.c. (Sense of Coherence)

聞いてすぐに分かる通り、Steve ReichのClapping Musicをモチーフに、実際に演奏された録音のタイム感をテンポ解析、抽出しそのまま使用している。デクオンタイズと言うべきか。音のサンプリングではなく、演奏内容をサンプリングしている。Reichの楽曲は、機械で演奏させてしまっては面白みは半減してしまうが、人の演奏のノリやブレを解析して機械に再現させてみることで、普段、グルーヴ感のある打ち込みをやることとは逆のアプローチを試みた。かなり正確な演奏で驚くが、全体としてBPM=140から最大141.15の間で微妙なブレが生じている。

タイトルは首尾一貫感覚という意味の医学用語。


8    cardinal point

元々は、ミラノのフリッツ・ハンセンショールームで行われたデザイナーの水ともこさんがアレンジした、12脚のセブンチェアーの展覧会、NORTH EAST WEST展のために制作したものだったが、父の出身地である岩手県遠野市にある、五百羅漢で環境音を録音している時にふとこの曲の響きを思い出し、その時の録音とミックスし再構成したもの。2011年以降、音楽がどうも聞けない、作れないという時間での個人的なリハビリになった曲。






9    S.h.d. (Stereotypes harm dignity)

”固定概念は尊厳を傷つける”

この曲は、reaktor6のシーケンスフレーズと、korgのアナログドラムマシーン mini popsの音色を軸に、アナログベースのアルペジオをランダムなタイミングで弾くことで頭拍が曖昧になるようなポリリズム的な効果を狙った。そこにインドの太鼓パカワジと、打弦楽器サントゥール、ハルモニウムが重なり、後半はウッドベースが入り、アプローチとしてはアフロジャズ的な解釈だが、印象はテクノかもしれない。が、それについてはどうでもよい。

 外国で暮らしていると、日本について質問をされたり、逆に日本人からイタリアについての質問される機会が良くある。質問者には予めイメージがあり、予想通りであるか、予想を大きく裏切るかどちらかの答えを待っている。イタリア人は怠け者で、楽天家、そしてずる賢い、というようなステレオタイプなイメージとは逆に、勤勉で、厭世家で、実直なイタリア人も沢山居るわけで、会話を成立するにはどちらかに振った方が面白い。そこに皮肉や、情熱を込めれば完璧だ。しかしどちらも本質ではないし、そもそも、これは○○だというイメージを固定することに大義はない。

 音楽もしばしば、固定観念に囚われているように思う。多くの人は、オーセンティックなものが好きだと思うし、それは重要な要素だが、伝統的な音楽を扱うには、十分な知識と技術が必要だ。もしそこから離れ、何か新しいジャンルを生み出そうとしてみたところで、先人がすでに試みていることだろう。オーセンティックなフリージャズ、ノイズ、エレクトロニカ、なんだってある。

全部越えたところにも、ジョン・ケージのようなオーセンティックな実験音楽を追求した先人も然り。

このジレンマから抜け出し、本当にジャンルから自由になるには、特定のジャンルから無意識にズレる事、音楽的な慣習、癖、知識に囚われずに、別の答えを探すこと。

革命的な変化は突然やってくるものではなく、小さなズレの積み重ねが自ずと変化をもたらすのではないか。

released February 15, 2019 

all music instruments, recording, mixing, mastering and cover design by Gak Sato 

2019 S.I.A.E.